中長期視点で先を見据えたM&Aを。ニッタイ工業が考える日創グループの可能性。
プロフィール
ニッタイ工業株式会社 常務取締役 大和田 兼司氏
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1974年生まれ。2022年6月ニッタイ工業常務取締役営業所長に就任、2023年6月より同社常務取締役営業部長。2022年8月に日創グループ参画が発表された後、2023年2月に正式に株式譲渡がなされ日創グループへ参画。全国に営業拠点・ショールームを有するニッタイ工業の営業の長として統括指揮する。
ニッタイ⼯業株式会社について
—— まずは、ニッタイ工業について教えてください。
ニッタイ工業は、1936年に愛知県常滑市で設立されました。
常滑市は伊勢湾に面する知多半島に位置し、良質な粘土や燃料資源を背景に発達した中世から続く日本の代表的な陶器産地です。常滑市周辺で生産される陶磁器は「常滑焼」として広く知られ、「日本六古窯」の一つに数えられます。この地で、当社は耐火レンガの製造・供給を目的としてスタートしました。
現在では、レンガからタイルへと主力製品をシフトし、自社での製造から販売までを手掛けています。愛知県のほか、札幌、東京、大阪、福岡など全国に営業拠点を展開しています。
タイルは製法上大きく分けて「乾式タイル」と「湿式タイル」の2種類がありますが、当社は特に「湿式タイル」の製造に強みを持っています。湿式タイルの市場は全体の約5%程度となりますが、湿式ならでは風合いや質感・魅力を有しているのが特徴です。当社は国内で唯一、2つの製造拠点を持ち、供給量と技術面で業界内でも高い評価をいただいています。
M&Aのきっかけ〜実施まで
中長期を見据えた体制づくりを視野に
—— M&Aを考え始めたきっかけを教えてください。
当時の社長は既に退任されているため、私が知っている範囲でお伝えしますが、M&Aが実施されたのは2022年で、その3〜5年前から検討はしていたのかと思います。
検討を始めた背景としては、当時の業績や会社の状況は決して悪くはありませんでしたが、長期的に日本の市場を見据えた際、需要の減少が懸念されていたことです。
具体的には、少子高齢化による人口減少や住宅着工数の減少が挙げられます。M&Aを検討し始めた時点では年間約90万件の住宅着工数がありましたが、現在では約80万件に減少し、将来的には60万件程度にまで減少するという予測もありました。
タイル業界は、建物が建たなければ成立しません。
そのため、現状の窯業だけでは将来の会社の展望が不透明であり、事業の多角化が必要だと考えるに至ったのです。
検討していた選択肢としては、
- 単独での生き残り
- 同業他社とのグループ化
- 異業種のM&A(買収側として)
などがありました。
—— M&A(買収側)も選択肢としてはあったのですね。
はい、そうです。ただ、目をつけていた企業とはタイミングが合わなかったり、他の企業に先に買収されてしまうなど、なかなか思うようには進みませんでした。そんな中、別の企業さんから「福岡に金属加工を手掛ける日創という企業がありますよ」と逆にご提案をいただき、そこで初めてお話を伺うことになりました。これが当時の経緯です。
社内の反響と体制の変化
社内では驚きも大きかったM&Aの発表
—— M&Aが発表された当時の反響はいかがでしたか。
2022年8月末に社内発表がありましたが、私自身もその2ヶ月前に常務取締役として経営陣に加わったばかりだったため、発表を聞いた時は非常に驚いたことを覚えています。金属加工の会社と窯業を手がけるニッタイとの結びつきが、当時は正直なところあまり想像できなかったのです。
また、2022年当時はコロナ禍が終息し、経営も増収増益で回復基調にあったことから、単独でこのまま事業を続けていくのだろうという雰囲気が社内にもあったのも事実です。
ですので、本当に中長期視点での未来を見据えての選択だったんだろうなと感じています。
—— 突然の発表のなか、不安や懸念などはありましたか。
正直なところ、親会社から役員が派遣されたり、人事異動や経営体制の変更が行われたりするのでは、といった不安が少しありました。
しかし、その心配はすぐに解消されました。
当社には1名の役員が派遣されましたが、その方が『人を大切にしたい』ということをしきりにおっしゃっていたんです。また、ニッタイ工業の伝統や文化を大切にしながら経営を続けてほしい、経営理念なども変える必要はなく、そのうえで日創プロニティの経営理念も理解して貰えれば良い、とのお話もいただきました。
もちろん経営的な支援などは大変お手伝いいただいていますが、既存の社員や経営陣がそのまま経営できるような支援の仕方を考えてくださっているのがとても印象的です。
—— 逆に変化はありましたか。
そうですね、オーナー企業から上場企業の子会社という立場に変わったことで、内部統制やコンプライアンスに対する取り組みがこれまで以上にしっかりとしたものになりました。これまでは口頭での承認だったものを、正式な稟議を通すプロセスに変更したり、職務権限の明確化なども進めています。
結果として、企業としての責任をより明確に果たすための体制に移行していると感じています。
これまでと比べると業務量は一時的には増えてはいますが、これは社員の意識改革を含めた過渡期なのだろうと感じています。
異素材間でのシナジーと幅広い可能性
—— 金属と窯業との結びつきについてのお話もありましたが、今はどのように感じられていますか。
発表当初はあまり具体的なイメージが湧いていなかったのですが、今ではさまざまな分野で新製品の開発や企画が活発に進んでいる印象です。
日創グループには、金属以外にも多様な素材を扱う企業が複数あり、可能性が広がっていると感じています。
例えば、最近では木材を扱う株式会社マルトクと協力し、当社のタイルと組み合わせたテーブル天板の企画を進めています。また、日創やマルトクとの共同企画で洗面化粧台を製作し、展示会に出品するなどの取り組みも行っています。
別の角度では、ECサイトを運営するカナエテ株式会社と連携し、当社製品のオンライン販売を推進したり、建設・施工を手掛ける日創エンジニアリングとの協力を通じてお客様を紹介してもらい、タイル技術との連携を模索するなど、営業支援面でも新たな事例が生まれています。
グループ内でのつながりが深まることで、グループ企業同士でのラフな相談や連絡も起こるようになり、新しい取り組みを進めるための基盤が整ってきたなと感じています。
総じて、当初の「金属加工」という印象から大きく変わり、今はより幅広い可能性が広がる環境になっていると実感しています。
今後のM&Aにむけたメッセージ
先ほどお話した内容にも通じるのですが、日創グループは本当に人や企業文化を尊重してくれる会社なので、安心してグループに加わることができると感じています。
また過去のグループ企業やM&A事例を見ても、派手な利益追求型の買収ではなく、その地域に根ざした工場や地場産業にしっかりと目を向け、堅実で光るものを持つ企業に声をかけている印象を受けます。
こうした明確な軸を持って行われるM&Aだからこそ、信頼できると感じています。
私たちも日創グループの一員として、これまで培ってきた技術や文化を尊重しながら、互いの強みを生かしながら新しいビジネスチャンスを共に創り出していくことを期待しています。